姶良市加治木にある網掛橋は11月中旬には復旧という事で、地域に少し明るい兆しが見えてきました。
今回は加治木を代表するお菓子『加治木まんじゅう』について、加治木に住みながら歴史系のイベントを仕掛ける花見酒さんに寄稿していただきました。
この記事の最後に製造直売店マップが付いていますので、加治木饅頭の食べ歩きをしてみて、お気に入りのお店を探してみるのも楽しいかもしれませんよ。
加治木の定番和スイーツ! 加治木まんじゅうの知られざる歴史
姶良市加治木の名物といえば、加治木まんじゅう。
地元はもちろん、市外にもファンが多く、最近はニュースやSNSで話題になることも増え、にわかに注目を集めています。
一口に「加治木まんじゅう」といっても、お店ごとに味や形が異なります。
餅米と麹で作る甘酒をベースにするのは共通ですが、食感はモチモチ系もあればふわふわ系も。餡はこしあん、粒あん、うぐいすあんなど様々で、白(プレーン)のほか、よもぎや「揚げ」などのアレンジ版を提供する店もあります。
(豆知識:店名に「堂」がつく店は粒あん、それ以外はこしあんが基本。ただし両方扱う店もあります)
現在、加治木には製造直売型の6店舗が「加治木饅頭製造組合」として営業。それぞれ個性豊かなまんじゅうを作り続けていて、自分好みの“推し店”を見つけるのも楽しみの一つです。
昔から愛されてきた加治木まんじゅうですが、その歴史を知る人は意外と少ないのでは?
「戦国武将・島津義弘が橋工事を監督した際のお茶請けとして出されたのが始まり」という話は有名ですが、これはあくまで“言い伝え”。確かな記録は残っていません。
今回は、書籍や新聞など確かな資料をもとに、加治木まんじゅうの歴史の一端をご紹介します。
「加治木まんじゅう」という名が文献に登場する最古の記録は、1897(明治30)年刊行の『鹿児島案内記』。加治木の項目で「名物に麦饅頭あり(中略)加治木饅頭として持囃る(※)」と紹介されています。 ※「人気がある」の意味
さらに1905(明治38)年の百科事典『内外百事便覧』では、全国の名産土産として鹿児島から10品が選出。桜島みかん、焼酎、かるかん、鰹節、薩摩焼といった今も有名な特産品の中に、加治木まんじゅうの名も堂々と並んでいます。

これらの記録から、少なくとも明治中期には加治木まんじゅうが広く知られた存在だったことがわかります。
一方、いつから作られ始めたかは不明。現存する最古の店・美坂饅頭屋(1823=文政6=年創業)にも記録は残っていません。ただし『加治木郷土誌』には「実業家・佐藤平右衛門が明治初年に製造販売を開始」とあり、少なくとも江戸末期には存在していたと考えられます。
加治木まんじゅうの魅力の一つは、その手ごろな価格。
物価高騰で近年は値上げ傾向にあるものの、それでも1個130円前後。サイズとクオリティを考えれば、破格の安さです。
昔もそれは変わらず、『内外百事便覧』には「2個で1銭」と記載。当時、アンパンの元祖・木村屋は1個1銭だったので、いかに安かったかがわかります。
1銭の現代価値は約200円。つまり1個100円相当で、今とほぼ同じ価格設定です。
時期によってはさらに安く、「加治木饅頭は一銭五厘三ツ、中学校生徒が饅頭屋で饅頭食った」という歌まで流行ったとか。
手軽な価格で、鹿児島神宮や霧島神宮への参拝途中の子どもたちのおやつとしても親しまれました。
そんな人気ぶりから、店頭販売だけでなく出張販売も盛んに行われました。特に1907(明治40)年からは加治木や近隣の駅構内で販売開始。停車中の列車に窓越しに手渡しで売り、最盛期には1日1万個以上を売り上げることもあったそうです。
庶民の味として親しまれた加治木まんじゅうですが、著名人にも愛好家がいました。
歌人・与謝野鉄幹は幼少期に加治木で過ごし、後年訪れた際に「思い出深い加治木饅頭」を妻・晶子に土産として購入。
また島津忠重公爵の好物であり、娘の俔子妃(天皇陛下の曾祖母)が嫁いだ久邇宮家でも好んで食され、献上品としても重宝されました。1936(昭和11)年に俔子妃が鹿児島を訪れた際、加治木に立ち寄って買い求めた様子を報じる新聞記事も残っています。

いかがでしたか?
今も昔も、幅広い人々に愛され続ける加治木まんじゅう。
この先もずっと、その味が続いてほしい── そう願う人は多いでしょう。
しかし現実には、ご高齢で後継者のいない店舗がほとんど。あと5年、10年もすれば、昔ながらの加治木まんじゅうが食べられなくなる日が来るかもしれません。
とはいえ、歴史を振り返れば和菓子離れ、原材料高騰、戦争による物資不足など、幾度となく苦難に直面しながらも、そのたびに復活してきたのが加治木まんじゅうです。 新たな担い手が生まれ、伝統の味が受け継がれることを、心から願っています。

【 花見酒 】
本業のかたわら、戦国島津氏や姶良の歴史を深堀する企画を行う「しまづくめ」を主宰。地元・加治木のかもだ通り商店街の一員として、地域を応援しています!
しまづくめ 代表
http://sengoku-shimadzu.com
島津義弘公ゆかりの地あいらPRプロジェクト実行委員会 委員
https://twitter.com/AiraSHIMADZU

