これまで過去2回ほど、この作品について記事を書かせて頂きました。
島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」キャスト決定!
島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」8月公演に向けて今年度の活動を開始!
 本来ならば、この公演のPRがしたくて、このカゴシマガジンの執筆者に名乗りを上げた筆者ではありますが、実際問題、この数か月、頭の中はこの公演の事で一杯で、記事ひとつ書いている気力も時間も作り出せないまま、あっという間に時間が過ぎて、気づけば本番が終わっていた・・・そんな日々でした。

島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」2022 
Youtubeライブ中継アーカイブ 
https://youtu.be/lEXHl5woB-Q

奄美新聞記事より
島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」
南海日日新聞記事より
演技、歌、ダンスで観客魅了 3年ぶり「えらぶ百合物語」本公演 沖永良部島

公演については、上記の記事やYoutubeで見て頂くとして、裏方目線でのレポートをさせて頂こうかと思います。

 公演の当日は、この作品史上初の快晴でした。これまで毎回といっても過言ではないほど、公演の前後に台風がやってきて、機材の到着が遅れたり、キャストが遠征先から戻れず当日に間に合わなくなったり…その度に、公演日を1日遅らせたり、急遽代役を立てたりして、なんとかかんとか乗り越えながら公演を続けてきたこの作品。ところが、今年やってきたのは、台風ではなく新型コロナの第7波という、日本中を巻き込んだ大嵐でした。

 公演の1か月ほど前から、出演者の中からも、ひとり、またひとりとコロナ感染者や、濃厚接触者が出始め、代役を立てての練習が続きました。練習開始時には必ず手洗い。練習中もマスク必着。長時間練習で昼食をはさむ際も、お弁当は友達との間を開けて黙食で!!そんな声掛けを口を酸っぱくして続けましたが、自治体が毎日発表する感染者数は日々増え続けるばかり。
 そんな中で迎えた本番当日、罹患して出演できずに涙をのんだメンバーは1名。1名で済んだ事も、本番が迎えられた事も、この状況では奇跡以外の何物でもなかったと、公演後、多くの方からお声かけを頂きました。
 そして涙をのんだメンバーの分までと、急遽代役を仰せつかったメンバーは期待以上の熱演を見せてくれました。

 本番の出演者は30名。そのひとりひとりにドラマがありました。

 S君は中学1年生。小学校の頃から特別支援学級に通う彼は、台詞を覚えるのも一苦労。覚えた端から台詞が記憶から消えてしまいます。周囲のみんなと一緒に行動するのも苦手で、気づけば練習会場内で行方不明。「あいつどこ行った?」とみんなで大声で名前を呼ぶのも日常茶飯事。じっとしていられず、自分の出番まで待つことも苦手。歩けばいい場面で走る。むやみやたらに暴れまわり跳ね回る。でも、音感だけは天才的で、楽譜は全く読めないのに、一度気に入った曲は耳で聞いただけで覚え、得意のピアノで見事に演奏して見せてくれます。練習会場にピアノがあれば、休憩時間の度に夢中でピアノを弾いては、みんなに聞かせてくれました。

 最初は全ての台詞が棒読み、棒立ちだった彼に、演出家の太郎さんは、根気よく演技を指導しました。まわりのみんなも、S君への演技指導を通して、自分の演技ももっとこうしたら、ああしたらと考えるきっかけをつくってくれました。そして、本番当日。大勢の観客に気後れすることなく、堂々と歌い、踊り、演じ切ってくれた彼を見て、彼のお母さんが、お礼の言葉とともに太郎さんに何度も何度も繰り返して言いました。

「うちの子、あんなことができるんですね。本当にあんなにできるんですね」

 S君だけではありません。本番の舞台の上では、出演者全員が、それぞれに、今までの自分とは全く違った自分を見せてくれていました。それこそが、舞台がかける魔法そして、奇跡なのだと思います。その魔法と奇跡にかけられ、会場は感動と涙に包まれたのだと思います。

 公演が終わって2週間。子供たちの活動も、今は小休止。事務担当の私は、今はまだまだ残務に追われる毎日ではありますが、秋には少しずつ、次回公演に向けて活動を再開していこうと思っています。カゴシマガジンでも、また、活動の様子をお知らせして参りますので、よろしければどうぞお付き合いください。

島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」2022よりテーマソング「灼熱の白い花」

投稿者プロフィール

長野久美
長野久美沖永良部在住 パソコン関連自営業
奄美群島南部、沖永良部島に主人と二人で移り住んだのは1999年の夏でした。以来、島でパソコンの何でも屋を営んでおります。現在仕事そっちのけでどっぷりとはまっているのが、島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」の運営のお仕事。この活動を紹介しつつ、時々沖永良部の情報もお伝えしていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。