日本には四季折々、私たちの目を楽しませ、心に静かな安らぎをもたらしてくれる美しい花々があります。厳しい寒さを耐え抜き、春の先駆けとして咲き誇る花といえば、やはり「梅」をおいて他にないでしょう。
ここ鹿児島でも、薩摩川内市にある国指定天然記念物「藤川天神の臥龍梅(がりゅうばい)」が、白妙の花を咲かせ、見頃を迎えたとのこと。
https://www.instagram.com/fujikawatenjin_official?igsh=ZW94aDlmd3p5bjFz
【藤川天神Instagram】
梅の魅力は、その可憐な姿もさることながら、ふわりと漂う「香り」にもあります。その香りに春の訪れを予感し、梅の香りが一段と特別に感じられる2月21日、薩摩文化普及の会主催「梅の宴」へと足を運びました。

一般社団法人薩摩文化普及の会
薩摩に古くから伝わる薩摩琵琶や薩摩香道などの士風文化の継承・体験・発信を通じて鹿児島の文化の魅力を発信している団体。
2025年に設立され、昨年も度々地域文化イベントを開催してきました。
今回の【梅の宴】は、当法人代表で香司 菟道竈(とどうかまど)の堀之内夕子先生、薩摩琵琶弾奏者(戦国武将・島津義弘公直系十五代末裔)島津義秀さまによる記念すべき第一回目の催しです。
今回の会場は、鹿児島市の黎明館茶室「楠芳亭」

屋内に入りますと、

心遣いを感じてほっこり幸せになれる演出ですね。

催しが始まる前には、呈茶とお菓子のおもてなしもありました。
こちらは、御菓子司あじ福さん。
見た目も美しく、これから訪れる春を予感させるような美味しいお菓子です。
さて、【梅の宴】は2部構成。
前半 薩摩琵琶 一節切
後半 薩摩香 語り
お恥ずかしながら、薩摩琵琶を拝聴するのも、独自の作法による聞香(もんこう)を体験するのも今回が初めてのこと。未知の世界への扉を叩く高揚感と、小さな緊張で、私の内心は少なからずドキドキとしていました。

はじめに、薩摩琵琶の特徴や歴史についてを島津義秀さまからご説明がありました。
薩摩琵琶は、薩摩の戦国武将・島津忠良(日新公)が、武士の士気高揚と道徳教育のために、既存の盲僧琵琶を改良させたのが始まりです。
薩摩琵琶は、撥(ばち)の大きさと形状が印象的。楽譜はなく口伝で継承されてきたとのこと。
演奏が始まると、その迫力に思わず息を呑みました。 力強い語りから始まり、次の瞬間、撥が弦と胴に叩きつけられ、「ペンッ!」という鋭い高音と「ドンッ!」という重低音が同時に炸裂します。それは「音楽を聴く」というより、「音の塊を全身で浴びる」ような感覚。 お腹の底までズシンと響く振動は、マイクを通した音では決して味わえない、生演奏ならではの醍醐味です。
この日は、江戸時代までは琵琶会の最初に歌われた大変おめでたい内容の曲として春日野を弾奏いただきました。
春日野の一節に以下のような歌詞があります。
【君が治むる御代なれば、幾萬世(いくよろずよ)の後までも変わらぬ御代こそ目出度(めでた)けれ】
【現代語訳】 「春日野の広大な風景のように、君(主君、あるいは大切な主賓)が治めていらっしゃるこの時代は、実におだやかで素晴らしいものです。この平和な世が、一万年も先、永遠の未来に至るまで、変わることなく続いていくことこそ、この上なく喜ばしいことでございます」
この一節、今のような時代だからこそ胸に響くものがありませんか?その言葉が意味するのは、平和が永遠に続くことへの祈りです。戦乱の世を知る薩摩武士たちが、誰よりも切に願った「平和への祈り」が、この一節に凝縮されているように感じられました。

薩摩香道といえば、香司 菟道竈(とどうかまど)の堀之内夕子先生。
前回は、小学生のお子さま向けのイベントを取材させていただきました。
今回は※聞香(もんこう)にくわえ、※組香(くみこう)という香道のお遊びも体験できるとのことでワクワク。

※聞香とは、単に香りの「匂いを嗅ぐ」ことではなく、香炉から立ち上がる香木の香りを、心を静めて鑑賞し、心の中でその香りを味わう楽しみ方。
※組香とは、 2〜3種類以上の異なる香木の香りを聞き、それが「どれと同じ香りか」「どのような順序か」を当てるゲームのようなものです。
手順はこちら。
1.席入 (参加される方々皆さんが席につきます)
2.総礼 (ご挨拶)
3.試香 (2種類の香を聞いて、どのように感じたかを記録)
4.本香 (ゲーム開始!3種類の香を聞き、試香で感じた感覚を元に香りを当ててみます)
5.記録・鑑賞 (参加者全員の解答を記録し、みんなで答えを分かち合います)
6.総礼・亭主挨拶
こうみると、とても敷居が高いような高尚な遊びに見えてしまうかもしれませんがそんなことはありません。
実際わたしも初めての体験でしたが、その場で「わからないこと」は遠慮なく聞ける和やかな雰囲気があり、緊張感よりもこの場を一緒に楽しみましょうという空気感でした。堀之内先生のお人柄だと思います◎
さて、いよいよ試香。香炉が回ってきます。
作法に従って香炉を左手にのせ、右手で覆いを作るようにして、その隙間から立ち上る微かな香りに意識を集中させます。
この香りに、「どんな色?」「どんな味?」「どんな情景?」を感じたかを記憶する。
1つ目の香りと、2つ目の香りに違いがあったか…うーん…
頭で考えてしまっているうちに、本香に入りました。
当てよう!とすると、香りの記憶が曖昧になってしまい感覚的には消去法の回答を出してしまいました..
このあたりの心の揺らぎは、自信の精神の未熟さを感じる場面でもあります。だからこそ、面白いですね。



自身は全くかすりもしませんでしたが、参加者の中で御一人だけ「全(全問正解)」がいました!(拍手!)
このような、全問正解のことを「満開」ともいうのだそう。
そして、たとえ香りを当てられなかったとしてもそれは「不正解」なのではなく「葉桜」や「蕾」のようにこれから豊かに満ちていくような表現で評価されます。

ね?香道の敷居へのハードル、少し下がりましたか?まずは体験してみてほしい!
薩摩文化普及の会は、今後も多くの方へ士風文化を発信・体験いただくために様々なイベントを企画されています◎
詳細が決まり次第、情報を追記していきます!
日程:令和8年6月27日
日程:令和8年4月18日 PM13:00~
場所:光明寺
「梅の宴」では、お腹の底まで響くような力強い「琵琶」の音色。しんと静かな空気の中で香りを楽しむ「香道」と、一見すると正反対のようですが、実はどちらも「自分を整え、明日への活力を蓄える」という、薩摩の人たちが大切にしてきたひとときだったのだと感じています。貴重な天然香木に癒やされ、かっこいい琵琶の響きに元気をもらう。そんな贅沢な時間は、忙しい毎日を過ごす私たちにこそ、最高のご褒美かもしれませんね。
こうした鹿児島の士風文化を、難しい顔をせず、誰でも楽しめる場として届けてくれる薩摩文化普及の会さま。
これからも「薩摩の粋」が、たくさんの方の心に届き、笑顔の輪が広がっていきますように。
春の訪れを五感いっぱいに感じられた、心温まる一日でした!
取材協力・一部写真提供
薩摩文化普及の会
specialthanks!
