阿久根の朝は、早い。 海は、漁火が灯って水面が美しい時間、今宵も午前3時から漁船は港を出発。30分くらい沖へ出て、海とにらめっこ。さあ、今日は捕れるかなあ。 阿久根では少数でしかやってない貴重な漁、きびなご漁だ。倉津漁港から出て、阿久根大島の裏手や桑島の沖の方まで向かう。そもそも、きびなご漁は仕掛けてみないと掛かるかどうか本当に分からない。それだからまた面白いのだが、その漁自体がほんとにユニークで見てるだけでわくわくするのである。
集魚灯を使った刺し網漁
まず、水深50Mが確保できる場所まで沖へ向かい、魚群探知機で魚のご様子をチェック。海底か赤く染まってくると魚が集まってきている知らせだ。そこに集魚灯といわれる光を照らす照明器具を水中に入れると、その光にプランクトンが集まってくるので、それをめがけて小魚が集まってくる。それから網を仕込んで魚が海底から餌をもとめて上がってくるのを待つ仕組みだ。漁師曰く、小魚がきびなごだけでなく、イワシやアジも集まる為、そのような魚が大量に捕れる年は、きびなごが全く寄り付かない時もあるそうで、毎回駆け引きが続く。ドキドキわくわくしながら待っていると、キラキラした小さな魚がぽつぽつと見え始めた。

期待を膨らませて、見守っていると子魚が漁船の周りをぐるぐる回りだす。’’お!きたきた きびなごだ!” 漁師の一声でボルテージは高まる。どんどん、魚が集まってきてその光景はまるでちびくろサンボだ。きびなごがトルネード状になり、上がってきたところで網を上げていく。これが刺し網漁といわれる漁だ。

’本物のかっこいい’というのはこういう人をいう
網にきびなごの頭が刺さりながら、ぴかぴか光ってどんどん漁獲されて、漁船がきびなごでいっぱいになる。本当に美しい。そして、この瞬間、漁師の表情は充足感に満ち溢れている。こちらの漁師、実は元サラリーマンだったのだが、ある時甑島からきびなご漁をする漁船がドッグのために阿久根港に入ってきたとき、きびなご漁に魅せられて虜になってしまったそうだ。そして甑島に渡り、きびなご漁を1から学びに行き、それを阿久根の海に合った漁を独自で生み出し、早8年目に突入した。まさに海の傑士である。夏場と冬場の取り方の違いや、季節に応じた魚の位置を細かく確認しながら毎回の学びを大切にしている。最近は、きびなごが日中は集団行動で、夜になると単独行動が増える理由を模索中だ。
地域に残していきたい財産
阿久根にはたくさんのきびなご漁師はいないので、本当に貴重であると同時に郷土愛も感じる。漁のバランスが悪くても、最初に引き込まれた漁の姿が彼の脳裏にある限り、追究は続いていく。彼の貪欲さとシンプルに漁を愛するスタイルが阿久根には欠かせないものだと強く思う。
きびなご漁をしている最中に小魚をめがけて鯛や鰹などの魚も寄ってくるので、釣りも楽しめる。また、漁船から眺める朝日は格別であり、 ますます阿久根の海にひきこまれるばかりである。


