- 鹿児島をもっと身近に!地域の生の情報をお届け中 -

お寺と神社と教会が手を取り合う 谷山で広がる新しい防災のかたち

近年、日本各地で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、避難所不足が深刻な課題となっています。大規模災害が起こった際、従来の指定避難所だけでは、すべての避難者を受け入れることが難しいのが現場です。

避難所不足の課題を解決しようと、全国各地で広がりをみせているのが、お寺や神社などの宗教施設を活用した避難の取り組みです。東日本大震災や熊本地震では、寺院や教会などが避難所や災害ボランティアセンターとして機能し、自治体や社会福祉協議会と連携しながら地域を支える重要な役割を果たしました。

令和7年4月時点では、鹿児島市指定避難所に記載されている宗教施設はありません。しかし、8月に発生した台風第12号の影響で和田川が氾濫した際に、和田にある宗教施設「浄土真宗本願寺派 妙行寺」が、一時避難所として機能しました。さらに、災害発生の翌日から10日間、災害ボランティアセンターとしての拠点にもなりました。

妙行寺が地域の拠点に―和田川氾濫時の支援活動

台風第12号の影響により、和田川が氾濫し、鹿児島市和田3丁目の一部エリアで、床上・下浸水などの被害が発生しました。地域住民が不安を感じているなか、真っ先に動いたのが、妙行寺です。和田川氾濫発生時に、妙行寺は一時避難所として地域住民を受け入れ、翌朝には、住職、副住職、お寺の職員が中心となって、近隣の方々にスポーツドリンクやタオルなどを配布しました。

さらに、妙行寺の門徒会館を拠点として「和田ボランティア本部―仮」を立ち上げました。妙行寺の住職、副住職、和田地区にお住まいの市議会議員、そして妙行寺に縁のある一般市民3名が中心メンバーとなり、地域の支援活動をスタート。妙行寺に縁のある多くの方々がボランティアとして駆けつけ、泥出しや家財の搬出など、復旧作業に力を尽くしました。

また、和田ボランティア本部―仮は、地域住民の相談窓口として機能し、専門職と地域の方をつなぐ“橋渡し役”としての働きも行いました。たとえば、看護師による被災した住民への健康サポート。こちらは妙行寺が、メッセンジャーナースと普段から関わりがあったからこそ実現できたことです。

このように相談窓口に来られた被災者一人ひとりの状況に、寄り添う支援が円滑に進んだ背景には、日頃から地域に開かれた場づくりを行ってきた妙行寺の存在が大きいです。

高齢者や認知症の方々など、地域の方々が集まって交流を深める「チームオレンジたにやま」のサロンや、看護師や薬剤師などの専門職の方に相談ができる「寺の保健室」などの開催を通して、普段から地域の人が集い、語り合えるお寺だからこそ、災害時の拠点として機能できました。

「和田ボランティア本部ー仮」の活動については、こちらをご覧ください。

宗教の垣根を越えてー谷山宗教連盟の誕生ー

2025年4月に、妙行寺、柏原神社、谷山カトリック教会の3つの宗教施設が連携し、「谷山宗教連盟」が結成されました。きっかけとなったのは、妙行寺の副ご住職の「宗教の垣根を越えて、地域のためにできることを」という想いです。昨年から準備を重ね、互いの礼拝や行事を訪ね合う中で、少しずつ信頼と理解を深めていきました。

谷山宗教連盟は、「宗教の違いを超えて、互いに理解し、支え合いながら、谷山地区の永続的な平和と発展を願う」ことを目的に設立されました。公共の福祉に関する活動以外に、自然災害などにおける防災・支援活動などを目的として活動をしています。

近年、全国的にも自治体と宗教施設が協定を結び、大規模災害時にお寺や神社、教会を避難所として活用する取り組みが広がっています。東北や九州北部など、他県では宗教施設が地域防災の重要な拠点として機能している事例も少なくありません。

しかし、令和7年4月時点で鹿児島市が指定する避難所一覧には、宗教施設はまだ記載されていません。災害時の自治体との連携も考えている谷山宗教連盟の取り組みは、鹿児島における新しい地域防災の形として、今後の広がりが期待されています。

実は、11月17日(月)に、谷山宗教連盟が「地域防災フォーラム」を開催します。「現代社会と自然災害における宗教(施設)の役割」について、大阪大学大学院教授の稲場 圭信氏が講話をします。日本最大の避難所情報、未来共生災害救援マップの開発や運営をされている教授です。避難所や災害ボランティアの拠点は、地域のことを知っているという意味合いでも、災害が起こったエリア内にあることが理想です。拠点になりうる関係者の方に、ぜひ聞いてほしいと思います。

ご興味がある方は、099-268-2026までご連絡をされてください。

災害は、いつどこで起こってもおかしくないからこそ、他人事ではありません。宗教や立場を越えて、地域の人々が手を取り合う。その小さな一歩が、何かが起こったときに声を掛け合い、支え合いながら暮らせる安心なまちづくりへとつながります。今回のフォーラムが、谷山から新しい“共助のかたち”を生み出すきっかけとなることを願っています。

投稿者プロフィール

上村 ゆい

ヨガインストラクター×ライター。どちらかというと身体が硬めのヨガインストラクターです。その人に合ったレッスン内容を心がけているので、老若男女問わずレッスンを受けていただいています。ヨガレッスンは、出張ヨガがメイン。趣味は、美味しいものを食べること。ライターとして鹿児島のいろいろなことをを発信していけたらと思います。

この著者の最新の投稿