台風や集中豪雨による「水害」は、いまや日本のどこかで毎年のように発生しています。
鹿児島でも、8月7日〜8日の豪雨で霧島市や姶良市の一部が浸水。さらに、8月21日に薩摩川内市の西の海上で発生した台風12号の影響で、南さつま市の「加世田川」があふれたり、鹿児島市の「和田川」や南九州市の「大谷川」が氾濫したりし、浸水被害が拡大しました。
災害対応で何より大切なのは、初動の早さです。和田川の氾濫後、有志が翌日には「和田ボランティア本部(仮)」を立ち上げました。その拠点となったのが、鹿児島市和田にある「浄土真宗本願寺派 妙行寺」。ここを拠点に10日間、地域の人々を支える取り組みが続けられました。
今回は、その妙行寺での災害支援の様子をお伝えします。
6名の有志で立ち上げた「和田ボランティア本部(仮)」
8月22日(金)午前11時頃、妙行寺のご住職がFacebookに投稿しました。
「和田近辺の浸水被害で床上に泥が上がっています。泥かき出しのお手伝いができる方はご協力ください。拠点は門徒会館です」
投稿を見たわたしは、車で10分ほどの距離にある妙行寺へ向かうことを決めました。ご住職には日頃からお世話になっていたこともあり、「少しでも力になりたい」と思ったのです。
現地に着くと、見慣れた町並みは一変。泥に覆われた道路や、運び出される水没車が目に飛び込み、水害の恐ろしさを実感しました。お手伝いに集まった人々は、黙々と道路にたまった泥をスコップでかき出しています。しかし、一日だけの作業でどうにかなる状況ではありません。行政の支援体制が整うまでの間、誰かが動かなければならないのです。
その場に居合わせた和田地区在住の市議会議員、妙行寺のご住職と副住職を中心に6名の有志で、災害復興チーム「霧島の未来を守る会」のアドバイスを受けながら、急きょ和田ボランティア本部(仮)を立ち上げることにしました。
泥の撤去や家財の片付けなどのお手伝いができるように、翌23日から動ける災害ボランティアの募集を開始。23日は、班わけをして、和田3丁目を中心に一軒一軒訪ねて被害状況を聞き取りました(一部聞き取りは22日に実施)。220軒ほど調査した結果、床上浸水17軒、床下浸水64軒(独自調べ)に上ることが分かりました。


約100名もの住民が参加した「生活再建に必要な情報を伝える住民説明会」
もし家屋が浸水した場合、どのような対処をすべきでしょうか? 鹿児島市のホームページに、以下のように記載していました。
家屋が浸水した場合は、細菌やカビが繁殖しやすくなり、感染症にかかるおそれがあるため、清掃が必要です。怪我等にご注意いただき、作業を行ってください。床下や庭などの屋外の消毒は原則不要で、清掃ししっかり乾燥されることが大切です。
引用:鹿児島市ホームページ
浸水した家屋は、まず泥などを撤去し、その後に消毒と十分な乾燥を行うことが重要です。床下の消毒については、厚生労働省の感染症対策に「屋外(床下や庭)の消毒は原則不要」と記されています。しかし、浸水の状況によっては、床下の消毒が必要になる場合があります。いずれにせよ泥出しと乾燥は欠かせません。

乾燥の方法として効果的なのが、送風機の使用です。鹿児島県は「被災された方の涙を減らし、笑顔を増やす」を掲げるNPO法人Vネットと協定を結んでおり、鹿児島県議会議員の協力のもと、8月23日から妙行寺で送風機の予約・貸し出しを開始しました。9月1日以降は、鹿児島市社会福祉協議会谷山出張所が貸し出し窓口となっています。
とはいえ、浸水被害にあわれた住民の多くは、家具や床・壁の掃除方法など復旧に必要な知識を持ち合わせていません。妙行寺では相談窓口を設けていたため、連日多くの相談が寄せられました。そこで、和田ボランティア本部(仮)が主催し、「生活再建に必要な情報を伝える住民説明会」を妙行寺の本堂で開催することに。

説明会では、鹿児島大学病院特任教授・川村英樹先生に「災害時の感染症対策」をご講演いただきました。さらに鹿児島市から、罹災証明の申請方法、税金減免や災害見舞金の制度説明、相談窓口リストの提供、市民相談センターや谷山支所総務課といった相談先の紹介も行われました。開催のわずか2〜3日前にチラシを作成・配布したにもかかわらず、当日は約100名もの住民が参加しました。
「和田ボランティア本部(仮)」で行ったこと
8月31日までの約10日間、「和田ボランティア本部(仮)」が中心となって支援活動を行いました。主な取り組みは以下の通りです。
・災害ボランティアの募集・受付窓口の設置
・鹿児島市社会福祉協議会との連携
・町内会長や和田コミュニティ協議会との連携による住民ニーズの把握
・住民の要望とボランティアのマッチング
・相談窓口の設置
・送風機の予約・貸し出し対応
・住民説明会の準備と開催
・必要な情報をまとめたチラシの作成・配布など
住民からは、
「家財の搬出を手伝ってほしい」
「道路の側溝にたまった泥を取り除いてほしい」
といった具体的な支援の依頼が多かったので、できる限りの対応をしました。


また、災害から日が経つにつれ、体調を崩す方が増えていきます。そこで8月30日までメッセンジャーナースが常駐し、住民への健康聞き取りを実施しました。専門職の協力を得られたのは、日頃から妙行寺が地域で活動を続けてきたからこそです。
妙行寺を拠点としたことで、10日間でのべ367名のボランティアが活動に参加してくださいました。住民の方からは「ボランティアの皆さんが声をかけてくださり、力を貸してくれたおかげで片付けがスムーズに進みました。妙行寺にボランティアセンターがあって本当に助かりました」といった声が寄せられています。
門徒会館を10日間も開放してくださった妙行寺の存在は、地域にとって大きな支えでした。災害時に誰が動き、どこが拠点になるのかを、平時から考えておくことの大切さを改めて感じました。


