前回、「50歳からの格闘家デビュー」として書いた記事が長期間に渡ってよく読まれている様でしたので、今回は60代からの趣味として伝統楽器奏者に注目してみました。
 鹿児島は島津家が長期に渡って統治してきた事や密貿易に代表される海外交流もあり、全国と比較して独自の文化が多く育っている様に感じます。

 今回は天吹とごったんで活躍している各先生方に『60代から始める薩摩伝統楽器奏者のススメ』というテーマでお話しを伺いました。

薩摩武士のたしなみ『天吹』奏者

生駒綱雄 先生 (『韻天流』天吹塾塾長)

 日本において笛の歴史は古く、最古の物は縄文時代の石笛にまで遡る事ができる様です。
 現代に至るまでに日本各地で様々な笛が作られてきましたが、この『天吹』という笛は江戸期に薩摩藩で武士の嗜みとして受け継がれてきた笛です。
 鹿児島での天吹奏者の現状は、古来より続く規定曲のみ伝承しているグループと伝承曲にこだわらず最近の曲や童謡までも演奏するグループに分かれている様です。

 今回は後者のグループにあたる『韻天流』の生駒先生にお話しを伺いました。

 天吹の利点としては、まず「楽器が高価でない事」と「軽くてコンパクトなので持ち運びが便利」という事が上げられるそうです。
 私の見ている範囲ですと、作れる方から譲り受けたりもするのですが、製作も含めて活動される方が他の楽器奏者よりも多い様に感じます。 

 60代になると考え方や体力的にも弱体化してくる事から天吹を嗜む事でそれを予防してくれる効果があるとか。
 様々な曲を吹ける様になる事で他者とのコミューニケーションの助けにもなっているとお話しがありました。

【韻天流天吹塾】 
主な練習会:吉野公園(鹿児島県鹿児島市吉野町)にて毎月第2木曜日・第3土曜日の13時~15時
お問い合わせ:TEL 090-2513-8451

集めた鹿児島伝承曲は80曲以上!成音会の『ごったん』

永山 成子 先生(成音会 代表)

 元は新居を建てた時にお祝いとして大工さんから贈られたという板張り三味線『ごったん』。
 南九州に伝わるマイナーな民俗楽器でしたが、昭和時代に活躍されたごったん奏者「荒武タミ」さんの活躍でようやく一般の方にも知られる物になった様な感じがします。

 今回は霧島市国分を拠点にしている成音会の永山先生にお話しを伺いました。

 永山先生と『ごったん』との付き合いは荒武タミさんと関係の深い街である財部町でお仕事をしていた事が切っ掛けで、20代の時に習っていた三味線の技術を元に財部町の方々にごったん指導を始めたのが最初でした。
 今では霧島市国分の教室を拠点として県内各地で指導をしており、主に70代くらいの方が習いに来ているそうです。

 成音会では鹿児島の伝承歌普及と収集に努めており、独自にまとめた民謡集は5集。曲数にすると約80曲になると言います。
 鹿児島の歌を「鹿児島弁で習いたい」という欲求が高齢者の人気を集めているのかもしれません。

【成音会】
教室:鹿児島県霧島市国分上井79
受講料:月2回 3,000円 月3回 4,000円
練習日:要相談
民謡集(1~5集)各1,500円
お問い合わせ:TEL 080-5609-1319
※ごったんの他に太鼓・尺八・横笛の指導も行っています

取材後記

 現状、鹿児島内陸部の伝承楽器は商業が絡む大きなステージではなかなかお目にかかる事が少ない状況です。
 海外からのお客様向けに、これから島に寄るにも関わらず、内陸部で島唄が披露されたりとか、これは武術の話しになるのですが、鹿児島を舞台にしたドラマのPRステージで県内の古武道流派は一部しか呼ばれず、何故か県外の武術流派が呼ばれたりと、本来鹿児島内陸部が持っていた文化の伝承が上手く引き継がれていない状況が現れてきているのを感じます。

 鹿児島のPR不足は、こういった民俗文化への知識のない方々が観光PRに携わっているが故に、他県との魅力的な差別化が難しくなっている事が一因と考えて良いのではないでしょうか?

 鹿児島は歴史豊かな場所ですが、それに伴い民俗文化を疎かにしてはいけない場所でもあります。

 これから民俗楽器奏者として始められる方はこういった現状を見ながらご自身の活躍の場所を増やしていただきたいです。

投稿者プロフィール

清永秀樹
清永秀樹
クリエイティブパフォーマンスBAN/代表
さつま忍者研究会/代表
H26~H29 KADOKAWA Walker plus 鹿児島県地域編集長(最終役職)