寒くなりますと、無性に「火」が恋しくなります。パチパチと燃える音、ゆらゆらと立ち上る炎、炎から放たれる(あたた)かみ、と「炎」には不思議な魅力があります。

1 火との出会い

人類はいつから「火」を使うようになったのでしょうか。はっきりしたことは分かっていませんが、現在、発見されている最も古い火の使用は、南アフリカ・スワルシクラ洞窟の約150万年前とされています。

では、人類は最初どのようにして「火」を手に入れたのでしょうか?よく考えてみますと、動物((けもの))が火を怖がるように、人類も初めは火が怖かったはずです。でも、人類は他の動物と違った特性「好奇心」を持っていました。火に対する恐怖心を好奇心によって克服し、火に少しずつ近づいていったのではないでしょうか。それは、次のような過程が考えられます。

1 山火事などの「自然の火」に興味を持ち始める。
2 恐れつつも火に近づき、一段と興味を持つ。
3 火に木などを継足(つぎた)すことで、火が燃え続けることを知る。
4 火の暖かさ、明るさを知り、生活に取入れるようになる。
5 火による調理法を知る。
6 必要に応じて火が作れるようになる。

こうして、人類は「火」によって、(やみ)を照らす「明るさ」や寒さを凌ぐ「暖かさ」、野獣から身を守る「武器」、さらには食べ物を焼くといった「調理法」まで手に入れることができました。

2 火を使う

火の使用によって「人類は初めて文明を持つ余裕が持てた」とも言えますし、「他の動物との根本的な違いが生じた」とも言えます。では、火の使用によって人類にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

それまでは、野獣に(おび)えたり、寒さに耐えたりした不安な生活をしていました。人類は当初、住み家として雨露を凌ぐため、自然にできた洞窟のような場所を選んでいたと思われます。

洞窟は昼間でも暗く湿っぽいですが、火が明かりを照らすことで奥深いところまで住むことができるようになり、かなりの集団で住めるようになりました。

また、洞窟の入り口で焚き火をすることで、野獣を遠ざけることができ、安心して暮らすことが可能になりました。さらには、洞窟内を煙で(いぶ)すことで、害虫などを駆除することもできました。

特に、これまで住むことができなかった寒冷地でも、焚き火で暖を取ることで、厳しい冬を越すことができるようになり、約8万年前から始まった氷河期でもヨーロッパや北アメリカ地域で生き抜くことができました。

人類が火の使用で最も変わったことは、「食糧を焼いて食べるようになった」ことでしょう。最初は山火事などで焼け死んだ動物を食べたりしたのが、きっかけだったと思われますが、生の肉に比べて軟らかく食べ易かったことが分かり、次第に肉を焼いて食べる習慣がついてきました。

特に、食糧に火を通すことによって、次のような効果が上がりました。

1 食糧の中の細菌や虫類を殺す効果が生じた。
2 そのため、衛生の面でも飛躍的に向上した。
3 焼いた方が生に比べて消化が早く栄養摂取率が高くなった。
4 人類の平均年齢が延び、体格の向上に繋がった。

時代はずっと下りますが、人類は焚き火の煙を利用して、食糧を燻すことを発見しました。燻製(くんせい)を作ることによって食糧の長期保存が可能になり、これまで以上に暮らしが安定しました。

さらに人類は、火を道具として扱うようになりました。初期の頃は木や動物の骨を焼いて硬くして狩猟の道具を作りました。また、大木の胴部を焼き、石斧を使って丸木舟を作りました。

縄文時代になりますと、火を使って土器を作るようになり、これまで焼く・燻すの調理方から、煮る・蒸す・水を入れてアクを抜くなどの新たな調理方が増え、生活は一変しました。さらには、青銅器、鉄器など、人類にとって、なくてはならないものまで次々と生み出しました。

3 火とともに

人類が火を手に入れた経緯については様々な神話にもそのエピソードが語られています。日本神話には、イザナギとイザナミが二人で力を合わせて国を造り、たくさんの神々を生みます。最後に生んだのが「火の神」です。イザナミは最後に生んだ火の神の炎で火傷を負い、その傷が元で死んでしまいます。

神話は、「火は幸福をもたらしますが、その使い方によっては不幸ももたらす」といった警告を私たちに与えているようです。

このように、「火」との出会いは、まさに「文明」との出会いでありました。私たち人類は(はる)か太古から「火」とともにありました。炎に不思議な魅力を感じるのは、私たちの体の中のDNAがその記憶を留めているのかもしれませんね。

文責:鈴木

投稿者プロフィール

suzuki
霧島市に在住しています。
読書とボウリングが趣味です。