前回は、巨大カルデラ周辺の地形の成立ちと滝の特徴を述べましたが、今回は「滝はどのようにしてできたのか」について紹介したいと思います。

1 滝の上流の魚はどこから?

その前に、単純な疑問です。なぜ、滝の上流には魚がいるのでしょうか?魚は滝をのぼったのでしょうか?ちょっとたした落差の滝だったら可能かもしれませんが、数mを超える滝では不可能です。

ちなみに、家の床の間に飾る掛軸には、滝の鯉のぼりが描かれているのがありますが、これは、滝の上流と下流に同種の鯉がいることから魚自らの(さかのぼ)った、さらには滝を遡るほどの生命力を鯉が持っていたことを現わすため、縁起物(えんぎもの)として描かれたのではないかと思われます。

答えは「最初から滝はなかった」です。地形の変動によって、最初にできた河川には滝みたいな段差はなく、魚が行き来できるほどの緩やかな流れの河川でした。そして、地形や川底の硬さなどによって、水の流れに変化が生じ、急流な場所ができました。下記の図は急流地点を「(せん)急点(きゅうてん)」と呼んでいます。

2 川の流れの変化が滝を生む

皆さんは、急流での川下りの経験はないでしょうか。近場では人吉市の球磨川の川下りが有名ですね。川下りといっても、常に急流だけでなく、緩やかな流れもあれば、激しい急流もあります。実は、激しい急流の川底では、流水作用によって岩石でできた川底が削れる、時間的にはゆっくりですが大きな変化が起きているのです。滝の形成のシステムは次のとおりです。

➀水の流れが発生する(初期河川ができる)
➁浸食が始まる
➂最初に河床に段が出来る(遷急点)
➃その下流では流れが速くなる
➄浸食が強まり、段が大きくなる
➅さらに、浸食が強まり、段が大きくなる

このようにして、遷急点での落差が大きくなって小さな滝ができ、さらには滝が上流の方へ後退しながら発達してゆき、10mを超えるような滝ができました。現在の滝も、将来的には後退して瀑布(ばくふ)の高さも大きくなると思われます。

次の写真は、雨水のよって山道にできた窪みですが、落込みが後退するほど、窪みが大きく深くなってきています。まさに滝の形成とその発達過程を現わしています。

ちなみに、幕末(157年前)に犬飼(いぬかい)(のたき)を訪れた坂本(さかもと)(りょう)()の記録には、現在の姿と変わりは全く見られません。滝の変化(滝を構成する岩石の崩壊)は千年単位で行われますので、1万年後は滝つぼが数mほど後退しているかもしれません。私は生い先短いので確認できませんが、読者の皆さんは長生きをして確かめてください。たったの1万年ですよ!(笑)

3 滝の上流はなぜ平坦なの?

カルデラ台地の周辺にある、犬飼滝(霧島市)、龍門滝(姶良市)、神川滝(錦江町)、曽木の滝(大口市)、桐原の滝(曾於市)、関之尾滝(都城市)などの滝の上流部はすべて平坦となっています。

これは、カルデラ台地の形成に深く関わっています。前回紹介しましたように、カルデラ台地は、火山灰のまま残っている上部の層と、熱と圧力によって再度岩石(溶結(ようけつ)凝灰岩(ぎょうかいがん))となった下部の層に、大きく分けることができます。そして、その層境は基本的には平坦となっています。

犬飼滝上流部(平坦となっている)
関之尾滝
関之尾滝上流部

滝を構成する岩石は主に溶結凝灰岩であり、滝の上流部は火山灰層が流失してため硬質な凝灰岩が残った。すなわち、火山灰層と溶結凝灰岩層の境界面が露出したため、平坦な河床(かしょう)となりました。ちなみに、それぞれの滝を構成する溶結凝灰岩と年代は次のとおりです。

滝 名カルデラ年 代
犬飼滝(霧島市)姶良カルデラ約30,000年前
龍門滝(姶良市)姶良カルデラ約30,000年前
高千穂峡(高千穂町)阿蘇カルデラ約80,000年前
神川滝(錦江町)阿多カルデラ約100,000年前
曽木の滝(大口市)加久藤カルデラ約340,000年前
桐原の滝(曾於市)加久藤カルデラ約340,000年前
関之尾滝(都城市)加久藤カルデラ約340,000年前

つまり、それぞれの滝の形成年代は、カルデラ噴火の時期より短いことがわかりますし、犬飼滝並びに龍門滝は3万年に満たない期間で、あの雄大な瀑布ができました。

さらに、前回記述しましたように、凝灰岩の中にある亀裂によって、垂直な瀑布(直瀑)をつくり、滝つぼに落ちる水が低周波の振動を起こすために滝つぼの裏が崩落して、坂本龍馬が手紙に書いてあった「(うら)()の滝」ができました。

ちなみに、霧島市牧園町の丸尾(まるお)にある「丸尾の滝」は、霧島連山から流れ出た溶岩によってできた滝です。直瀑ではなくて岩肌を伝わるように流れているのが特徴です。

丸尾の滝

このように、巨大カルデラ周辺の滝は、年代や構成岩石の違いはありますが、その形成過程に多くの共通点があります。夏の暑さはまだまだ続きますが、近くにある滝を訪れ、雄大な瀑布を思う存分に体感していただき、滝の歴史にも触れていただければと思います。

文責:鈴木

投稿者プロフィール

suzuki
霧島市に在住しています。
読書とボウリングが趣味です。