技術の伝承と大工さんの経験のもとにつくられた伝統建築

最近、知り合いから「素敵な取り組みをしている方がいるよ」と紹介をされることが多くなりました。今回紹介をしていただいた方は、南さつま市で一級建築士事務所「鯵坂建築研究所」をされている鯵坂徹先生。

愛知県名古屋市生まれで、大阪育ち。約30年ほど三菱地所/三菱地所設計でいくつかの建築保存再生プロジェクトを手がけたそうです。2013年に退社後に、鹿児島大学大学院理工学研究科建築学専攻教授に着任をされ、10年ほど勤めました。現在は、1887年頃に建てられた「旧 猪鹿倉邸」を保存再生をし、住まれています。

鹿児島には、古い建物がたくさんあります。建築家の目線で、古い建物を残すために必要なことは何かについて、鯵坂先生にお話をお伺いしました。

歩いていて楽しい街並みとは

元々は、中高層建築が専門だったそうです。古いものが好きだったこともあり、新しい建物をどんどん建てていくというよりかは、昔の建物を活かしながら高い建物をつくることをされていたとのこと。代表作品は、「フェリス女学院大学図書館・7号館・キダーホール」や「国際文化会館本館再生」、「明治生命館街区再開発」などです。

鯵坂先生の建築に対する考え方は、公益社団法人 日本建築家協会のサイトに以下のように記載されていました。

歩いていて楽しい街並みには、「連続性」「多様性」「密度」があります.そして、その街並みを構成している建築は、景観をつくり、人々の記憶となり文化を積層します.私は、街に親しまれ、社会に迎えられるような建築を建築主と共につくっていきたいと考えます.また、これからは、地球温暖化防止を目指して、夢のある未来を具現化できる建築でなくてはならないと思います.

https://www.jcarb.com/Portfolio00004425.html

木造建築に興味を持つきっかけとなった鹿児島の「麓」

鹿児島大学の教授として着任し、「麓」に興味を持たれたそうです。

一般的に呼ばれている麓とは、山裾のこと。しかし、鹿児島では、近世の薩摩藩が治めた集落を意味するそうです。旧薩摩藩の領内には、約120カ所の麓があったと言われています。現在は、鹿児島県内に100ヶ所の麓集落があります。

鯵坂先生は、約2年ほどかけて鹿児島県内のさまざまな麓集落をまわられたと仰っていました。その中で、木造建築を見るようになり、面白いと感じ勉強をしたとのことです。

現在、鯵坂先生が住まれている「旧猪鹿倉邸」は、南さつま市加世田にあります。実は、鯵坂先生のお父さまは、加世田出身という繋がりがあるのです。

旧猪鹿倉邸は、1887年頃に建てられた建物です。20年ほど空き家になっており、2018年頃に売りに出されました。加世田の歴史ある町並みにある古き良き建物ですが、広さもあるので管理をするのは、とても大変です。でも、空き家のままにしていると朽ちてしまいます。「伝統建築を残したい」という思いがあり、鯵坂先生は購入をすることに決めたそうです。

旧猪鹿倉邸の門です。実は、昭和59年12月に放送された「男はつらいよ」の撮影に使われたそうです。すごいですよね。

伝統建築には、すべて意味がある

住むにあたり、改修が必要になってきます。鹿児島大学の学生さんや、仲間たちと一緒に、3〜4年ほどかけて改修をしていったそうです。

「古いものを古いまま残す」という考えを大切にしているので、使えるものは使い、使えないものだけを変えていったとのことです。例えば、トイレの壁がシロアリの巣になっていたので、トイレは全て改修をしたそう。

明治や江戸時代頃は、トイレは外にありました。それは、シロアリから母屋を守るためでもあったそうです。シロアリは、風通しの悪い水回りなどにくるそうですよ! 「伝統建築には、すべて意味がある」と鯵坂先生が仰っていました。

せっかくなので、伝統建築の一部をご紹介します。

こちらは、通気性が良く、夏は下の空気が上に逃げるので涼しい「竿縁天井(さおぶちてんじょう)」。吊り木で二ヶ所ほど釣って、その上に板を並べているそうです。

こちらは、「平木葺き屋根」と呼ばれるもの。150×300mmほどの大きさで、2〜3mmの厚みの板を重ね合わせています。この上に、瓦を固定するために土を載せたり、漆喰を敷きこんだりしているそうです。土葺きは、昭和初期まで主流だった工法で、断熱効果があったみたいです。土葺きは、地震の際に瓦を落とすことにより、建物を守るという説があるそうです。また、ずれても、すぐ瓦屋さんが補修できることも長所だと考えられているとのことです。

他にも色々と見学をさせていただいたのですが、伝統建築は奥が深く面白いですね。印象的だったのは、「伝統建築は、現代の建築のように計算ができない」という鯵坂先生の言葉でした。技術の伝承や、大工さんの経験によってつくられているのが、伝統建築だそうです。

地震や台風がきても、こうやって形が残っている。「古いものを古いまま残す」ということは、本来の姿のまま残していくということなのかもしれません。手を加えて形を変えなくてもいいということですよね。

砂の祭典の際に、旧猪鹿倉邸を公開しています!

実際に住んでみての感想をお伺いしました! 

「住んでみて快適」とのことです。それでは、住み心地がよい旧猪鹿倉邸をご紹介します。

広々としたお座敷です。主に、客人用スペースとして使われているそうです。

所々に古道具が置かれています。

お庭も広いです! よく見てみると、砂像があります。旧猪鹿倉邸のある、加世田麓にも「砂の祭典」の際に砂像が並んでるんです!

鯵坂先生は、砂の祭典などの際にご自宅を解放し公開スペースにしているそうです。伝統建築を自分の目で見てみたい方は、是非行かれてみてくださいね。

投稿者プロフィール

上村 ゆい
上村 ゆいヨガインストラクター×フリーライター
ヨガインストラクター×ライター。どちらかというと身体が硬めのヨガインストラクターです。その人に合ったレッスン内容を心がけているので、老若男女問わずレッスンを受けていただいています。ヨガレッスンは、出張ヨガがメイン。趣味は、美味しいものを食べること。ライターとして鹿児島のいろいろなことをを発信していけたらと思います。